同じ「英語」でも、イギリス英語とアメリカ英語では、スペルや語彙、日付の書き方など、多くの違いがあります。ビジネス文書やウェブサイト、レポートなどを翻訳するときに、この違いを意識しないと、読み手に違和感を与えたり、ときには意味を取り違えられたりします。
この記事では、DeepL・OpenL・Google翻訳などのオンライン翻訳ツールを使って、日本語から自然なイギリス英語へ翻訳する方法を、手順つきで解説します。また、BrE(British English)とAmE(American English)の代表的な違い、UKやEnglandなどの用語の使い分け、チェックのコツもまとめます。
英語の専門家でなくても、この記事の内容を押さえれば、「どのツールで」「どの設定にして」「どこを直せば」イギリス英語として通用する訳文になるかが見えてきます。
- イギリス英語翻訳とは何か、アメリカ英語との違いを理解できる
- DeepL・OpenL・Google翻訳でイギリス英語に近づける具体的な操作が分かる
- スペル・語彙・日付・敬称など、BrEとAmEの違いの要点を押さえられる
- UK / Britain / England などの正しい使い分けと、チェックのコツを学べる
イギリス英語翻訳の基本
最初の章では、「イギリス英語翻訳」とは何か、なぜ英語の種類を統一する必要があるのかを整理します。どんな文書でイギリス英語への配慮が特に重要になるのかも具体的に見ていきます。
イギリス英語翻訳とは
ここでいう「イギリス英語翻訳」とは、日本語などからBritish English(イギリス英語)のルールに従った英語へ訳すことを指します。
イギリス英語翻訳が意識される主な場面は次のようなものです。
こうした文書では、「color」ではなく「colour」、「center」ではなく「centre」のように、スペルや言い回しをイギリスの標準に合わせる必要があります。
さらに、the UK / Britain / England など、国や人、言語に関する語の選び方も重要です。たとえば「イギリスの会社」と書きたいとき、多くのケースでは「a company in the UK」が安全です。「a company in England」とすると、スコットランドやウェールズの会社は含まれなくなってしまいます。
英語の種類を統一する理由
文書内で英語の種類を統一する一番の理由は、信頼性と読みやすさを守るためです。
イギリス英語とアメリカ英語が混在すると、読み手は小さな違和感を何度も感じます。たとえば、同じ文書の中に「colour」と「color」が両方出てきたら、その時点で「どちらが正なのか」「ちゃんとチェックされているのか」と不安になります。
さらに厄介なのは、スペル以上に意味の違いがある単語です。
有名な例として「homely」があります。
イギリス読者に向けて「a homely café」と書けば、「家庭的で落ち着くカフェ」という好意的な印象になります。しかしアメリカ英語の感覚で読むと、「見た目が冴えないカフェ」とネガティブに受け取られかねません。
翻訳では表情や声のトーンで補うことができません。そのため、あらかじめ「この文書はイギリス英語で書く」と決めておき、用語やスペル、表記ルールをまとめておくことが大切です。
どんな文書で重要か
イギリス英語かアメリカ英語かは、本来どの文書でも統一されている方が望ましいです。ただし、特にイギリス英語への配慮が重要になるのは次のようなケースです。
たとえば、法律や金融の文書では、語の選び方一つで解釈が変わることがあります。イギリスの法律を前提にした文章なのに、アメリカ英語の用語で書かれていると、専門家から見ると「どの法域を意識しているのか」があいまいになります。
一方で、社内のメモや下訳レベルであれば、スペルの揺れが一部残っていても致命的な問題になることは少ない場合もあります。このあと紹介するツールの設定やチェック方法をうまく使い分けて、文書の重要度に合わせた「イギリス英語らしさ」を目指すのが現実的です。

BrEとAmEの違いを理解
この章では、イギリス英語(BrE)とアメリカ英語(AmE)の違いを、翻訳で問題になりやすいポイントに絞って整理します。スペル、語彙と意味、日付・敬称・引用符などの表記ルールを一度整理しておくと、後のチェック作業が楽になります。
スペルの代表的な違い
翻訳した英文をイギリス英語に整えるとき、まず確認したいのがスペルです。代表的な差を表にまとめます。
| 種類 | イギリス英語(BrE) | アメリカ英語(AmE) | 意味 |
|---|---|---|---|
| -our / -or | colour, honour, neighbour | color, honor, neighbor | 色、名誉、隣人 |
| -re / -er | centre, metre, fibre | center, meter, fiber | 中心、メートル、繊維 |
| -ise / -ize | organise, realise, analyse | organize, realize, analyze | 〜を組織する、認識する、分析する |
| -ence / -ense | defence, licence | defense, license | 防御、免許 |
| -ogue / -og | catalogue, dialogue | catalog, dialog | カタログ、対話 |
| -ll- / -l- | traveller, skilful, instalment | traveler, skillful, installment | 旅行者、器用な、分割払い |
| その他 | programme, tyre | program, tire | 番組・プログラム、タイヤ |
チェックのコツは、「-or で終わる単語」「-ize で終わる動詞」「-er で終わる名詞」など、パターンで探すことです。WordやGoogle Docs、ブラウザのスペルチェックを「English (United Kingdom)」に設定しておけば、多くのAmEスペルを自動で検出してくれます。
なお、-ise / -ize については、イギリスでも -ize を許容するスタイルガイドがあります。ただし、翻訳で迷ったときは、クライアントの指定か、過去文書の表記に合わせるのが安全です。
語彙と意味の違い
スペル以上に誤解を招きやすいのが、語彙そのものや意味の違いです。代表的な例をいくつか挙げます。
意味が変わってしまう語としては、先ほどの「homely」の他にも、次のようなものがあります。
※こうした単語は、読者の地域を意識して厳重にチェックしましょう。
翻訳ツールは文脈をある程度読んでくれますが、すべてを任せるのは危険です。イギリス向け文書なら、なるべくBrE寄りの語を選び、「vacation」より「holiday」、「downtown」より「city centre」といった置き換えを意識するとよいでしょう。
日付敬称引用符など表記
表記ルールの違いは、地味ですがプロのチェックでは必ず見られる部分です。イギリス英語に合わせる場合、次のポイントを押さえます。
具体例で比べてみます。
-
英語:BrE: 28th December 2024 / AmE: December 28th, 2024
日本語:2024年12月28日 -
英語:BrE: Mr Smith said, ‘I’m from the UK’.
日本語:スミス氏は「私はイギリス出身です」と言った。 -
英語:AmE: Mr. Smith said, “I’m from the UK.”
日本語:同上(アメリカ英語の表記)
略記の日付(28/12/2024 のような数字だけの表記)は、地域によって解釈が逆になる危険があります。国際的な文書では、「28 December 2024」と月名を文字で書く方が安全です。
こうしたルールは、イギリス英語のスタイルガイドや、翻訳会社・出版社のガイドラインでも触れられています。たとえば、翻訳会社が公開している英語スタイルの解説(例:アメリカ英語とイギリス英語の違い解説)を一度読んでおくと、全体像をつかみやすくなります。

主要翻訳ツールの使い方
ここからは、実際にオンライン翻訳ツールを使ってイギリス英語寄りの訳文を作る方法を解説します。DeepL、OpenL、Google翻訳の3つを取り上げ、それぞれの設定や手順を具体的に紹介します。
DeepLでen GBを使う
DeepLは、日本語⇔英語の翻訳で特に人気の高いサービスです。公式サイトによると、毎日何百万人ものユーザーが利用しており、PDFやWord、PowerPointなどのファイル翻訳にも対応しています。
イギリス英語向けに使うときのポイントは、訳文の英語を「English (British)」に設定することです。
ブラウザのURLに「/en-GB」と含まれるページ(例:日本語→英語(イギリス)ページ)を開いておくと、「英語(イギリス)」が初期設定になっていることがあります。
ファイル翻訳を使う場合は、画面の「ファイルを翻訳」エリアにPDFや.docx、.pptxファイルをドラッグ&ドロップします。その際も、右側の言語を「英語(イギリス)」にしておくことを忘れないようにしましょう。
※言語ペアによっては、単語ごとの辞書機能が使えない場合があります。その場合は、別途オンライン辞書でBrEのスペルや意味を確認すると安心です。
OpenLでBritish English
OpenLは、多数の言語とバリエーションをサポートする翻訳サービスです。イギリス英語も「British English」として独立した選択肢になっており、アメリカ英語やオーストラリア英語などと明確に切り分けて利用できます。
さらに、OpenLは分野ごとのモードや「DeepThink Pro」「Smart Context Pro」といった上位モードも用意しており、専門文書の翻訳にも向いています。
基本的な手順は次の通りです。
テキストだけでなく、ドキュメントや画像、音声、ウェブサイトURLも翻訳できるのが特徴です。たとえば、医療論文のPDFであれば、「British English + Medical」モードを選ぶことで、医療用語に配慮したイギリス英語訳を得やすくなります。
ブラウザ拡張としてMicrosoft Edgeに追加しておけば、イギリスのニュースサイトなどを閲覧中に、その場で日本語⇔British Englishの翻訳を呼び出すことも可能です。
Google訳文を英語UK化
Google翻訳は、無料で利用でき、テキスト・ドキュメント・画像・ウェブサイト翻訳に対応した非常に便利なツールです。ただし、英語は1種類しか選べず、「イギリス英語」「アメリカ英語」の切り替えはできません。
そのため、Google翻訳で作った英文をイギリス英語として使う場合は、あとから人手で調整する前提で考える必要があります。おおまかな流れは次の通りです。
そのうえで、次の点を目視でチェックします。
Google翻訳は、意味をつかむための下訳として非常に有用です。一方、イギリス英語として最終的な品質を求める場合は、DeepLやOpenLなど、BrEを明示的に選べるツールと併用するか、最終チェックをしっかり行うことが欠かせません。

ツール選びと実務チェック
最後の章では、自分の用途に合った翻訳ツールの選び方と、イギリス英語として仕上げるためのチェックのコツをまとめます。UK関連語(UK / Britain / England など)の使い分けや、BrE/AmE混在を防ぐための実務的なチェックリストも紹介します。
用途別ツールの選び方
どのツールが一番良いかは、「用途」と「求める精度」によって変わります。おおまかな目安は次の通りです。
たとえば、イギリスの法律事務所向けの契約書案を作るなら、OpenLで「British English + Legal」を選び、その後イギリスの弁護士やネイティブチェッカーに最終確認を依頼するのが理想です。
一方で、社内向けのメモや、イギリスの顧客に送る短いメールであれば、DeepLの英語UK設定で訳し、大きなスペルミスがないかだけをチェックする、といった軽めの運用でも十分な場合が多いでしょう。
国や大学によっては、イギリス英語かアメリカ英語かを指定しているケースもあります。たとえば、イギリスの大学のスタイルガイドや、各省庁の文書作成ガイド(例:英国政府のスタイルガイド(外部英語サイトの一例))を確認しておくと、その組織がどのルールを採用しているかが分かります。
UK関連語の正しい使い分け
イギリス英語翻訳では、国名や人、言語に関する語の使い分けも重要です。よく使う語の意味を整理します。
典型的な誤りは、「イギリス人」を「English people」と書いてしまうことです。これは本来「イングランド人」の意味になります。スコットランド人やウェールズ人を含む場合は、「British people」か「people from the UK」と書く方が正確です。
例文で確認してみましょう。
-
英語:I’m from the UK. I’m British.
日本語:私はイギリス出身です。イギリス人です。 -
英語:She is English, but her husband is Scottish.
日本語:彼女はイングランド人ですが、夫はスコットランド人です。 -
英語:British English is slightly different from American English.
日本語:イギリス英語はアメリカ英語と少し違います。
政治的・地理的に正確さが求められる文章(ニュース、教育資料、公式文書)では、「England」を「イギリス」の意味で安易に使わないよう注意しましょう。スポーツやポップカルチャーの文脈では、イングランド代表だけを指して「England」と言う場面も多いので、文脈をよく確認することが大切です。
混在防止と最終チェック
最後に、BrEとAmEの混在を防ぎ、イギリス英語として仕上げるためのチェックポイントをまとめます。特に、Google翻訳やAmE設定のツールも併用した場合は、意識的に確認しましょう。
実務では、まず機械翻訳で大枠を作り、その後に上のリストを見ながら短時間でチェックする、という流れが現実的です。専門分野の文書であれば、最終的にはイギリス英語ネイティブによる校閲を入れると、ニュアンスや文化差による誤解も減らせます。
BrE/AmEが混在すると、「この文書は本当にイギリス向けなのか?」という疑念を持たれたり、医療・法律・金融のような分野では実務ミスにつながる恐れもあります。逆に言えば、ここまで紹介したポイントを押さえておけば、多くのリスクは事前に防ぐことができます。

まとめ
最後に、この記事の要点をまとめます。自分の作業フローに合わせて、必要な部分をチェックリストとして活用してみてください。
- 「イギリス英語翻訳」とは、British Englishのスペル・語彙・表記ルールに合わせて訳すことを指し、特にイギリス向けの公式文書や専門文書で重要になる。
- 文書内でBrEとAmEが混在すると、読みづらさや誤解、信頼性低下につながるため、最初にどちらの英語を使うか決めて統一する。
- スペル(-our/-or, -re/-er, -ise/-ize など)、語彙(holiday, football など)、日付・敬称・引用符の表記がBrE/AmEで特に違いが出やすいポイントである。
- DeepLでは訳文側の言語を「英語(イギリス)」に設定し、テキスト翻訳・ファイル翻訳ともにen-GBで出力させることで、イギリス英語寄りの訳文が得られる。
- OpenLでは「British English」を明示的に選び、必要に応じてMedical / Legal / Financeなどの専門分野モードやDeepThink Proなどの上位モードを使うと、専門文書にも対応しやすい。
- Google翻訳は英語を1種類として扱うため、たたき台として使い、その後に「English (United Kingdom)」のスペルチェックと語彙・表記の手修正でイギリス英語に整える運用が現実的である。
- the UK / Great Britain / Britain / England / British / English は意味が異なり、「イギリス人=British」「イギリス英語=British English」とするなど、文脈に応じた正しい訳し分けが必要である。
- ツール選びは用途別に考え、一般文書にはDeepLやOpenLのGeneralモード、医療・法律・金融にはOpenLの専門モードや上位モードを優先して使うとよい。
- 最終チェックでは、言語設定→スペル→語彙→日付・敬称・引用符→UK関連語の使い分け、の順に見直すと、短時間でもBrE/AmE混在を大きく減らせる。

