
シャドーイングは「英語が伸びる最強の勉強法」とよく言われますが、実際には「とても強力だけれど、目的とレベルを間違えると効かない」学習法です。
この記事では、シャドーイングの本当の効果と限界、レベル別の正しいやり方、似た学習法との違いまで整理して解説します。
「とりあえず回数だけこなしているけれど、伸びている実感がない」「自分はまだやるべきタイミングなのか不安」という方でも、読み終わるころには、今日から何をどう変えれば良いかが分かるはずです。
- シャドーイングで伸びる力と、伸びない領域の違いが分かる
- 自分のレベルでやるべきか、始めどきと適切なやり方が分かる
- 教材の難易度・題材の選び方と、1日の具体的な手順が分かる
- リピーティング等との違いと、効果が出ない原因・改善策が分かる
シャドーイングの効果と限界
ここではまず、シャドーイングとは何か、どんな力に効いて、どこから先は他の学習が必要になるのかを整理します。
「最強」「これだけでOK」といった極端な情報に振り回されないための土台になる部分です。
シャドーイングの基本定義
シャドーイングとは、英語の音声を聞きながら、ほんの少しだけ遅れて、そのまま口に出して追いかけるトレーニングです。
ポイントは「音声を聞き終わってからマネする」のではなく、「聞こえている音にかぶせるように、1〜2語ぶん遅れて話す」ことです。
似た学習法と比べると、次のような違いがあります。
この「ほぼ同時に聞いて、ほぼ同時に話す」負荷のおかげで、耳と口と頭を同時に使うことになり、処理速度やリズム感に強く効きます。
日本でも、シャドーイングと音読の効果を扱った研究や解説は多く、たとえば門田修平氏の研究などでは、リスニングや発音への一定の有効性が報告されています(詳しくは大学の紀要などに掲載)。
伸びるスキルと伸びない領域
シャドーイングで伸びやすいのは、次のような「音と処理」に関わる力です。
一方で、シャドーイングだけでは伸びにくい、または効きにくい領域もはっきりあります。
たとえば次のようなものです。
語彙力そのものは、単語帳や多読で数を増やさないと限界があります。
文法の理解や読解力も、問題集や文法書でルールを整理する学習が必要です。
さらに、実際の会話で「自分の言いたいことを組み立てて話す力」は、オンライン英会話や対面の会話練習など、別のアウトプット練習が欠かせません。
つまり、シャドーイングは「すでにある程度知っている単語・文法を、耳と口で使えるようにするトレーニング」と考えるとイメージしやすいです。
「最強」だが万能ではない理由
多くの学習者がシャドーイングを「最強」と感じるのは、短期間でリスニングと発音の手応えを感じやすいからです。
音声を真似し続けることで、英語のリズムや音のつながりに急に慣れて、「今まで聞き取れなかった速度が、ある日ふっと聞こえるようになる」という体験をする人も少なくありません。
しかし、専門家のあいだでも、シャドーイングが「これだけで全部解決する万能トレーニング」とはされていません。
たとえば、独立行政法人などが公開している外国語教育に関する資料では、シャドーイングは有効な一手段として紹介されていますが、必ず語彙・文法・会話練習と組み合わせる前提で説明されています(参考:国立教育政策研究所などの言語教育関連資料 国立教育政策研究所)。
万能ではない一番の理由は、「意味を作り出す練習」と「自分の中の英語知識を増やす練習」が不足しやすいからです。
音とリズムの習得にはとても強い一方で、「知らない単語」や「知らない文法」は、いくら真似しても自分のものにはなりにくいです。
そのため、シャドーイングの効果を最大限にするには、単語・文法・会話などの学習とセットで設計することが大切です。

効果の仕組みと種類
ここからは、なぜシャドーイングが効くのか、その仕組みと種類ごとのねらいを整理します。
この仕組みを知っておくと、「何を意識してやればいいか」「自分にはどのタイプが合うか」が分かり、効果が出やすくなります。
処理速度と英語脳が鍛えられる訳
シャドーイングでは、「聞く」と「話す」をほぼ同時に行います。
このとき、脳の中では次のような処理が一気に走っています。
リピーティングのように「いったん全部聞いてから復唱」する場合、間の時間に日本語で訳したり、自分なりのカタカナ発音に置き換えたりしやすくなります。
ところがシャドーイングは、音声にすぐ追いつかないといけないため、その「日本語に訳してから考える」余裕がほとんどありません。
その結果、英語の音を聞いた瞬間に、そのまま英語として処理する回路が少しずつ強くなります。
これが、いわゆる「英語脳」に近い状態です。
また、速いスピードのシャドーイングを続けると、処理がどんどん早くなり、「ふだんの会話スピードがゆっくりに感じる」という変化も起こりやすくなります。
リスニングと発音への具体効果
リスニングに対する一番大きな効果は、「聞き取れる音の幅が広がる」ことです。
英語では、単語同士がつながったり、一部の音が落ちたりします(リエゾン・脱落など)。
シャドーイングでは、その変化した音のまま真似をするので、「教科書では知っている単語だけれど、音になると分からない」というギャップが埋まりやすくなります。
発音面でも、次のような要素をまとめて鍛えることができます。
自分で正しく発音できる音は、リスニングでも聞き取りやすくなります。
そのため、シャドーイングを続けると、リスニングと発音がセットで上向きやすいのです。
この「音のトレーニング」が、のちほど紹介する会話練習やスピーキング練習の土台になります。
主な種類とねらいの違い
シャドーイングにはいくつかのタイプがあります。
目的に合わせて使い分けることで、効果をコントロールしやすくなります。
| タイプ | 主なねらい | 特徴・ポイント |
|---|---|---|
| プロソディー・シャドーイング | 発音・リズム・イントネーション | 意味よりも、音の強弱やスピードを忠実にマネする |
| コンテンツ・シャドーイング | 内容理解・英語を英語で処理 | 音よりも、話の意味が追えているかを優先する |
| スクリプトありシャドーイング | 初期練習・難しめの素材への橋渡し | 文字を見ながら、音声に少し遅れて読む |
| スクリプトなしシャドーイング | 実戦に近いリスニング・発音訓練 | 耳だけを頼りに追いかける、本来の形 |
さらに、テキストを見ながら声を出して追いかける「パラレルリーディング」も、広い意味ではシャドーイングの一種として扱われることがあります。
音声を聞きながら黙読するだけの場合は、発音の筋トレにはなりにくいですが、「意味理解の補助」としては十分に役立ちます。
声を出せない環境では、まず「音声+黙読」で意味理解を固めておき、声を出せるときに本格的なシャドーイングを行うと効率的です。

レベル別のやり方と教材選び
ここでは、自分のレベルに合わせたシャドーイングの始め方と、効果を出すための教材選びの基準を解説します。
「難しすぎて苦しいだけ」「簡単すぎて退屈」という状態を避けることが、継続と成果のカギです。
初級者に不向きな理由と代替案
英語初級レベル(中学文法もあやふや・基本単語もあまり知らない)の段階では、本格的なシャドーイングはおすすめしません。
理由はシンプルで、意味がほとんど分からない英文を、音だけ追いかけても、学習効率がとても悪いからです。
語彙や文法の基礎が弱いままシャドーイングをすると、次のような状態になりがちです。
代わりに、初級者のうちは次のようなステップをおすすめします。
まずは単語と文法の基礎作りをします。
中学英文法の総復習と、基礎単語帳(中学レベル〜英検3級レベル)をしっかり固めます。
そのうえで、次のような軽めの音声トレーニングから始めると安全です。
簡単な英会話教材や中学英語レベルの音源で、スクリプトを見ながらオーバーラッピングを行います。
一文ごとに止めてリピーティングし、発音と意味を確認するのも良い練習です。
この段階で「ゆっくりなら意味も音も追える」レベルになってから、本格的なシャドーイングに移ると、挫折しにくくなります。
中級以上の基本手順と時間目安
基礎文法と基本単語がだいたい分かる中級以上であれば、シャドーイングはとても有力な選択肢になります。
ここでは、1日あたりの基本的な流れを紹介します。
この一連の流れで、1つの短い音源(20〜60秒程度)に対して、30〜60分ほどを目安にすると良いでしょう。
特に大事なのは、最後の「録音→自己チェック→修正」のサイクルです。
ただ回数をこなすだけでは、自分の悪いクセに気づきにくいため、音のズレを自覚しにくいまま終わってしまいます。
自分の声とネイティブ音声を聞き比べて、「どこが違うか」をはっきりさせることが、上達の一番の近道です。
教材難易度と題材選びの基準
教材選びは、シャドーイングの成否を左右するほど重要です。
特に押さえたいポイントは、次の3つです。
たとえば、TEDのスピーチは、以下の点でシャドーイングに適しています。
多様な分野で内容が面白く、興味を保ちやすいこと、ネイティブの自然なスピーチで、生の英語に触れられること、英語・日本語のスクリプトが用意されているものが多く、意味確認がしやすいこと、再生速度の調整や、短い区間への分割がしやすいこと、などです。
時間としては、1本6〜15分程度のスピーチを選び、その中の20〜40秒を1ブロックとして、2〜3日かけて仕上げていくと、負担と定着のバランスが取りやすいです。
難易度の客観的な目安としては、「1分あたりの語数(WPM)」を基準にする方法もあります。
たとえば、WPM140前後なら比較的ゆっくりめ、中級者向けの入門としてちょうどよく、WPM180〜200を超えると、かなり速く上級者向けになります。
ニュース教材や検定試験用のリスニング教材も、発音がクリアで文法的にも整っているため、ビジネスパーソンには使いやすいです。
教材選びやレベルについては、大手英会話スクールの解説も参考になります(例:シャドーイングのやり方を説明するECCのコラム ECC公式サイト)。

他学習法との比較と注意点
最後に、リピーティングや黙読などの類似学習法との違いと、シャドーイングでありがちな失敗パターン、そして会話力へのつなげ方をまとめます。
「何を目的にどの方法を使うか」が分かると、勉強全体の設計がスッキリします。
リピーティング等との効果比較
似た学習法との違いを整理しておくと、「今の自分にはどれが合っているか」を選びやすくなります。
| 学習法 | やり方 | 主な効果 | 向いている目的 |
|---|---|---|---|
| シャドーイング | 音声を少し遅れて追いかけて発声 | リスニング・発音・処理速度 | 会話スピードに慣れたい、音を鍛えたい |
| リピーティング | 1文ごとに止めて復唱 | 発音・文構造の理解 | 文の意味を確認しながら音読したい |
| オーバーラッピング | スクリプトを見て同時に音読 | リズム・発音の基礎づくり | シャドーイング前の準備運動 |
| パラレルリーディング | スクリプトを見ながら少し遅れて読む | 発音+意味理解の橋渡し | 難しめ素材の練習、内容理解重視 |
| 音声+黙読 | 聞きながら声を出さずに読む | リーディングとリスニングの統合 | 声を出せない環境でのインプット |
リピーティングは、文を区切ってゆっくり復唱できる分、「意味理解」や「文法の確認」には向いています。
ただし、音と音の間に「考える時間」があるため、自分の中のカタカナ発音で上書きしてしまいやすく、「耳で聞こえたそのままの音」を再現する訓練にはなりにくい面があります。
シャドーイングはその逆で、「考えるスキマ」をあえてなくし、耳で聞いた音をそのまま体に入れるトレーニングです。
そのため、音声面を重視したいときはシャドーイング、文法や意味の確認をしたいときはリピーティング、というように、目的で使い分けるのが良いバランスです。
効果が出ない典型パターン
一生懸命シャドーイングをしているのに、なかなか伸びを感じられない場合、多くは次のいずれかに当てはまります。
このような状態では、「苦しいのに伸びない」練習になってしまいます。
改善のために、次のポイントを取り入れてみてください。
まず、教材を「5割は聞き取れるが速い」と感じるレベルまで落とします。
意味があやふやな部分は、必ずスクリプトと訳で確認し、分からない単語・表現には印をつけます。
次に、オーバーラッピングやリピーティングをはさみ、「意味を理解したうえで音を出しているか」をチェックします。
そして、1セットの最後には必ず録音し、オリジナルと聞き比べて、「音の抜け」「リズム」「イントネーション」のズレを1つか2つに絞って修正していきます。
「毎日たくさんやる」よりも、「短くても、気づきと修正のある練習」を積み重ねることが、結果的に一番の近道です。
会話力へのつなげ方とQ&A
最後に、「シャドーイングで身についた力を、どうやって実際の会話に活かすか」という視点で、よくある疑問にまとめて答えます。
Q1. シャドーイングだけで話せるようになりますか?
A. いいえ。
シャドーイングは、発音・リズム・定型表現のストックにはとても有効ですが、「自分の言いたいことをその場で組み立てる力」は、別の訓練が必要です。
オンライン英会話や英会話カフェ、独り言英会話など、「自分で文を作って話す場」を必ずセットで用意してください。
Q2. 声を出せない環境では、何をすればいいですか?
A. 音声+黙読、オーバーラッピングの口パク版がおすすめです。
耳で音を聞きながら、スクリプトを目で追い、口だけ動かす練習でも、リズムや音のつながりには十分慣れることができます。
自宅などで声を出せる時間に、本格的なシャドーイングを行うと、負荷を分散できます。
Q3. どれくらい続ければ効果が出ますか?
A. 個人差はありますが、1日20〜30分を目安に、3カ月ほど続けると、多くの人が「リスニングが少し楽になった」「発音の感覚が変わってきた」と感じ始めます。
ただし、質の低い練習を半年続けるより、意味理解と自己分析をセットにした練習を3カ月集中して行う方が、体感としては大きく伸びるはずです。
Q4. 覚えた表現を会話でうまく使えません。
A. シャドーイングで出てきたフレーズを、そのまま会話や独り言で「使う練習」をしてください。
たとえば、「I’m wondering if…」という表現を何度もシャドーイングしたなら、その日のうちに、「I’m wondering if I should change my job.」など、自分の話に置きかえて3文ほど作って声に出します。
こうした「聞く→真似る→自分の文で使う」の流れを意識することで、シャドーイングの効果がグッと実戦的になります。

総括
最後に、この記事の要点をまとめます。
- シャドーイングは、英語音声を聞きながら少し遅れて追いかけて話すトレーニングで、リスニング・発音・処理速度に強く効く。
- 伸びるのは主に「音とスピード」に関わる力であり、語彙・文法・会話力そのものは、別の学習と組み合わせる必要がある。
- 初級者が意味の分からない教材で行うと非効率なため、まずは単語・文法の基礎を固め、リピーティングやオーバーラッピングから入ると安全。
- 中級以上では、「聞く→スクリプトで意味確認→オーバーラッピング→シャドーイング→録音・自己分析」という流れを30〜60分ほどで回すと効果的。
- 教材は「5割は分かるが速くてキツい」レベルを選び、20〜60秒ほどに区切って2〜3日で1ブロックを仕上げるイメージが続けやすい。
- リピーティングや黙読は意味理解や文法確認に向き、シャドーイングは「聞こえた音をそのまま体に入れる」訓練として使い分けるとよい。
- 効果が出ない主な原因は、教材の難易度ミス、意味理解不足、録音・自己分析なしの回数消化であり、この3点を見直すだけでも伸びやすさは大きく変わる。
- 声を出せない環境では、音声+黙読や口パクのオーバーラッピングを行い、声を出せるタイミングで本格的なシャドーイングを行うと負荷をコントロールできる。
- シャドーイングで覚えたフレーズは、その日のうちに独り言やオンライン英会話で「自分の言葉として使う」ことで、会話力へとつながっていく。
シャドーイングは、やり方とレベルが合えば、確かに「かなり強力」なトレーニングです。
一方で、過大な期待をせず、語彙・文法・会話練習と役割分担させながら取り入れることで、現実的かつ大きな成果を得ることができます。
今日から1つの短い音源で構わないので、「意味を理解する→声に出す→録音して確かめる」というサイクルを、まずは1週間続けてみてください。
小さな変化の積み重ねが、数カ月後の大きな伸びにつながります。
